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フィリピンから介護士? フィリピン通信3

フィリピンから介護士?   穴田久美子      2007.2.6

  日本の新聞記事やテレビの日比経済連携協定のニュースで、「フィリピンの看護師や介護士は日本の労働市場を熱望している」という話が主流になっている。フィリピン全土には1000以上の介護士養成学校があり、実際にマニラ首都圏の約150校の介護士養成学校に電話や訪問で取材してみると、彼らの本当に行きたい国はカナダ。カナダでは2年間在宅介護に携われば、永住ビザを獲得できて、配偶者と子のビザも得られる。大学中退でも2年間分の単位を取得し、6カ月の介護士養成コースを修了できていれば、介護士資格を申請できる。一方、日本で働くには4年制大学卒業資格と約半年の日本語研修と日本語による国家資格の取得が条件。

 

「日本でぜひ働きたい」というのは、過去に芸能人ビザで日本に滞在していた女性たち。ある程度日本語ができ、日本での生活になじんだ彼女らは、人身売買対策の一環として2004年3月から実施された「比人芸能人入国制限」のため、日本での就労が困難になった。しかし日本政府が「介護士や看護師など専門職の受け入れ」を発表したときから「介護士なら短期間で資格を得られる。日本語のできる私たちは有利」と、日本就労で貯めた大切な貯金を崩して多くが介護士養成学校へ。しかし彼女たちの多くは家族の経済的理由でハイスクールや大学を卒業できなかった。つまり「大卒」は彼女たちを締め出すための口実に思える。

 

フィリピンの看護師は4年制大学を卒業しているので、介護士として日本へ行くことは可能。しかし英語で教育を受けてきたフィリピン人看護師は、アメリカの看護師国家試験に合格すれば、アメリカ人看護師と同じ待遇で高給を得られるため、日本語による国家試験の合格を義務化している日本への関心はほとんどゼロ。アメリカだけでなく、中東やイスラエル、イギリスなど英語で仕事をできる国でもフィリピン人看護師は引く手あまた。各国での国家試験に合格しなければならないが、アメリカの看護師教育のカリキュラムで勉強してきた彼らの合格率は高い。たとえ日本での受け入れに合格しても、「研修生として日本に滞在しながら、欧米や中東での就労の機会を待つ」というフィリピン人も少なくないだろう。

 

先日、フィリピンの介護士養成学校視察に訪れた、日本の高齢者介護施設の理事長と話した。学校の教育や実習内容や学生たちの熱心さには満足そうだったが、「心配なのは、うちの施設の介護士たちの島国根性。経営者の知らない場で陰湿ないじめがフィリピンからの介護士を苦しめるかも」と顔を曇らせる。政府が決めた受け入れ条件だけでなく、日本の普通の人たちの心も壁になるかも知れない。日本の介護の現場では、「日本語が不自由なフィリピン人を相手に一緒に仕事をするのは負担。足手まとい。」との声が多いという。本音のなかには「低賃金で頑張るだろうフィリピン人ら外国人の存在が、日本人介護士の労働条件の改悪につながる」という懸念もある。

 

日本の雇用条件の厳しさを敬遠して、欧米や中東をめざすフィリピン人介護士。「超高齢化社会」に突入していくにもかかわらず、低賃金に耐えかねた若い職員が去っていく日本の介護現場。厚生省は今後5年間で介護職員を現在の100万人から150万人に増やす必要があると試算。しかし求職者数は2003年をピークに3割以上も減少。介護士となった人も4人に1人が1年以内に辞めて転職しているという。高級有料高齢者施設など一部の大型施設を除いて、多くの民間施設が人手不足で介護の質を保てない現状もある。貧富の差によって、入居する施設の介護サービスは二極分化、退職後も多くの人は格差社会の泥沼で生き続ける。

「私は経済的な理由で4年制大学を中途退学した。もしも日本がそんな私にもチャンスをくれるなら、一生懸命介護の仕事に励みたい」。フィリピンのある介護士養成学校の学生の言葉が耳に残る。

 

世界の介護市場を目指して、日本のヘルパー養成の5倍を超える、約800時間のカリキュラムで人材育成を続けているフィリピン。しかし日本はフィリピン人を含めた外国人介護士を受け入れは、「様々な理由」で、2007年も不可能らしい。そして今年も日本の多くの介護施設は縮小、閉鎖、サービスの低下という壁に苦しんでいく。

<了>

***この問題に関して、

3月11日に NHKスペシャル「介護の人材が逃げていく」(仮題)が放送されます。フィリピンでの取材は私が担当しました。ご視聴いただけるとうれしいです。

 

プロフィール Kumiko Anada

北海道出身。マニラ在住21年。フリーで取材や通訳などを仕事にしている。海外労働者や女性、こども、先住民族が抱える問題を支援するNGOでボランティア。

 

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