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ビナクル織について
北イロコス州の伝統織物 ビナクル織について
イロコス地方と織物産業
フィリピン・ルソン島北西部のイロコス地方は東シナ海に面した地域で、古くから綿花栽培と手織物の生産が盛んでした。イロコス織物の総称は「イナベル INABEL」と呼ばれ、植物、動物、人物など牧歌的な生活からインスピレーションを得たをさまざまなモチーフが織物にデザインされ、織り方も工夫されてきました。古来は金の代わりに綿を交換し、スペイン統治時代(1571-1898)には、高品質の綿と織物は税金の一部とみなされたそうです。ガレオン貿易船の交易品としてヨーロッパにも盛んに輸出され、一大産業として発展しました。
イナベルのなかでもひときわ異彩を放っているのが、ビナクル織です。ビナクル織は大自然の渦潮やつむじ風などのパワースポットを幾何学模様で立体的に表現している織物です。だまし絵のようなユニークな3Dデザインは、悪霊を目くらまししてよせつけない不思議な力があるといわれています。航海の安全を守る幸運の布として、ガレオン貿易船の帆布として珍重され、人々の暮らしを守る布として生活に寄り添い、織り継がれました。
ビナクルの基本のデザインは、黒と白、紺と白というように2色使われます。四角または長方形の直線で構成されますが、OP-ART(だまし絵)効果、3D効果を生んでいます。19世紀後半のアメリカ植民地時代には「機織りの芸術」といわれ、人気を博し、多くの伝統的な作品は、アメリカの美術館に収蔵されているそうです。
母から娘へと受け継がれる技術
その後、戦争を経てイロコス地方の織物産業は衰退。戦後は大量生産の安い輸入布に需要を奪われました。しかし、生活の中では母から娘へと織物の技術は受け継がれてきました。優れた織物は女性の結納品として高く評価されてきたそうです。しかし時代が進むとともに、織り手の高齢化が進み、現在ビナクル織が継承されているのは数か所残るのみで、風前の灯、きわめて限られています。フィリピンでも手に入りにくく、高価な稀少布となっています。高齢の女性たちが細々と伝統を守っているのが現状です。
南イロコス州ビガンのビナクル織の名手、カタリーナさん(86歳)は、現役の職人。
伝統文化継承への関心が高まるフィリピン
ここ数年、経済成長が続くフィリピンでは、伝統織物への関心も少しずつ高まっていて、とくに若い世代が伝統を絶やしてはいけないと継承に取り組みはじめました。いくつかのNGOや個人が伝統織物を買い取り、応援する小さなプロジェクトを始めていることが分かりました。また、地方の自治体も織物のPRや技術トレーニングの機会などを設けているようです。とくにマニラのNGO「GREAT WOMEN グレイトウーマン」は、女性たちが連帯してエンパワメントし合える経済的な仕組みを作ろうと零細な織元を積極的に支援する活動をしています。デザイン、制作から国内外の販売網づくりまで一貫してものづくりを支援しています。
私たちはGREAT WOMENを通じてビナクル布を発注し、女性職人たちを支援しています。フィリピンの織物はビナクル織に限らず日本ではほとんど知られていません。そこでフィリピン織物の魅力を日本に伝えるために「HABI PRIDE」(HABIとはフィリピノ語で織物という意味)ブランドをつくりました。日本のバッグ職人やデザイナーとのコラボレーションでバッグや小物、服等を製作販売しています。2020年2月には現地訪問をして、伝統の継承をめざす女性職人たちに会い、現状を聞き交流を深めることができました。今後、ビナクル織物の魅力を日本の人たちに伝え、女性たちの取り組みを支援していきたいと思っています。