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9月に入ったらクリスマス フィリピン通信1

フィリピン通信 2006/10/31

9月に入ったらクリスマス   穴田久美子

マニラ市内のどこのデパートでも、9月に入ったらクリスマスソングが流れ始め、店内にはクリスマスデコレーションが華やかになる。9月を英語に翻訳するとSeptember。語尾の-berは10月にも11月にも12月にも共通。なぜかそれを理由にフィリピンの人たちは「berが語尾に付くとクリスマスが始まる」と言う。しかし10月の中旬から11月1日まではハロウィン一色。クリスマスの飾りが取り除かれ、ドラキュラや黄色いお化けかぼちゃと蜘蛛の巣がウインドーを飾る。しかし11月2日からはクリスマスムード一直線。アメリカの文化を太平洋を隔てながらもそっくり再現。雪が降らないフィリピンで、雪をモチーフにした飾りがサンタクロースやトナカイと共に賑やか。

 

しかし街の露店では、パロールという星☆をモチーフにした電飾カラフルな壁飾りが販売合戦を繰り広げている。このパロールはイエス・キリストの誕生を知らせるダビデの星を、クリスマスのシンボルとして各家の軒先に飾るフィリピン独特のもの。しかしこのフィリピン・パロールが近年アメリカでも人気らしい。フィリピンからアメリカに移住した人、出稼ぎに行った人たちが「輸出?」したクリスマス文化。出稼ぎによる家族の離れ離れの悲しさ、寂しさがクリスマスには浮かび上がる。

電話会社のコマーシャルがアメリカとフィリピンに離れた家族を映し出す。「今年のパロール、届いたかい?」「アメリカは寒いけど、届いたパロール観てると心が温まるよ・・・」

キリスト教徒が大半を占めるフィリピンにおいて、クリスマスはイエスの誕生と家族の絆の大切さ心に刻む日。そしてフィリピンの多くの家族にとって一年に一度、香港や中東、欧米に出稼ぎに行っている愛しい父や母、兄弟・姉妹と再会できる時。国際空港の到着ロビーでは、毎年「国家の英雄」として、出稼ぎ労働者を称える政府の歓迎プログラムもニュースを飾る。大統領が空港で海外労働者を迎える場面と共に、必ず流れる情報が「現在、何人のフィリピン海外労働者が海外の刑務所で服役して、辛いクリスマスを過ごしているか」という話題。冤罪やレイプから身を守るために起きた殺人などで服役させられている人たちの家族の悲しみの声などが紹介される。歓迎会より、本当に政府がすべきことは国民が海外へ出稼ぎに行かなくてもいい経済環境を作ること。現状ではそれは夢のまた夢か・・・。

夢のような家族との時間をクリスマスの喜びと共に過ごした出稼ぎ労働者たちも、新年早々それぞれの国に仕事を求めて飛行機に乗る。そのころ街のデパートや街角からクリスマスの飾りも消えていく。

 

貧困層の子は、華やかなクリスマスシーズンが「嫌い」と言う。クリスマスになっても新しい靴や服を手にできないから。昨年の12月の、ある靴の会社のテレビコマーシャルを思い出す。

「富裕層の子がプレゼントされた新しい靴を車の中でうれしそうに眺めていると、物乞いの子どもが車の外で、コインを入れる空き缶を持って立っていた。車の窓を隔て二人の男の子が見つめあい、富裕層の子が、信号で車が走り出す瞬間、窓を開けて、真新しい靴を、貧しい子にあげてしまう。その貧しい子の足元にはボロボロのスリッパ。」

 

2006年はあと2カ月で終わる。-berの付く4カ月間も半分去っていった。毎年ながら暴走と迷走で一年を過ごしてしまう自分だが、このへんでちょっと立ち止まってこの一年間を猛省する。

 

プロフィール Kumiko Anada

北海道出身。マニラ在住21年。フリーで取材や通訳などを仕事にしている。海外労働者や女性、こども、先住民族が抱える問題を支援するNGOでボランティア。

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