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2.142022
フィリピン伝統織物は美しい布つなぎの宝庫—渡辺コレクションと調査研究
はぐくまれたきた世界各地の染織文化ー布と布をつなぐ技法
かつて布はすべて人の手で織られていて、生活の中心に機織りの作業がありました。各家には織機がおかれ、糸づくりから始まり時間をかけて身にまとう布、生活のための布が織られてきました。そして各地で染織技術や文化がはぐくまれてきました。
織りあげた布を衣服や毛布などに使うためには、織布と織布を繋(つな)いで布幅を広くする必要があります。そして織りあげた布を、より丈夫に美しく、とつなぎ方にもさまざまな工夫がこらされてきました。
この布つなぎの技法に注目し、フィリピンの少数民族の民族衣装と伝統織物を蒐集されてきたのが、フィリピンに在住(1972-97の25年間)していた渡辺敬子さん(80)です。
パクパクナティンスタッフもピナトゥボ火山大噴火時の救援活動では大変お世話になった大先輩でもあります。今回、渡辺さんのお宅にスタッフが伺い、布つなぎの技法についてお話を伺いました。
フィリピン伝統織物は美しい布つなぎの宝庫
渡辺さんによると、世界各地で布と布をつなぐ技法は工夫されてきましたが、フィリピンの伝統織物には、とりわけ美しいつなぎの技法が見られるそうです。
1.ルソン島北西部 イトゥネグ(ティンギャン)族のブランケット(毛布) 表と裏 渡辺敬子蔵
模様が浮き出るように織られており、表と裏があります。布つなぎは、織り糸を何本かよってとじ糸や刺繍糸として使い、針で布と布をつなぎ合わせます。織柄の花モチーフと同じ、または似た模様を布つなぎにして刺繍もほどこしています。ブランケットの端の四方もつなぎのデザインの半分で刺繍して美しくかがっています。この端かがりは布端が傷まないように補強も兼ねています。
高地に暮らすイトゥネグ(ティンギャン)族のブランケットは有名で、織柄は多彩です。上等な織物をたくさん所有していることが富の象徴、ステータスとされたそうです。とくに葬儀では壁に何枚もかけて見せることが欠かせませんでした。
2.ルソン島北西部 イトゥネグ族のブランケット 渡辺敬子蔵
模様が浮き出るように織られたブランケット。表と裏があります。ブランケットは手織布を3枚をつなぎ合わせてつくられます。
3.ルソン島北西部 イトゥネグ族のブランケット ビナクル織 表と裏 渡辺敬子蔵
ビナクル織はやや厚手の織物で、太い糸で織られているのが特徴です。表と裏は同じ模様が出ます。幾何学模様で球体を表現するユニークな織物ですが、デザインのシャープさに合わせてつなぎのデザインも考えられています。
渡辺さんによると、とくにルソン島北部とミンダナオ島の民族衣装や伝統織物の布つなぎ技法は工夫がこらされていて、多彩で美しいものがたくさんみられるそうです。私たちは今まで「つなぎ部分」に注目して布をみることはありませんでしたので、今後は織物だけではなく、つなぐ技術やデザインにも注目していけたらと思いました。
渡辺さんが出会ったとりわけ不思議な布つなぎの技法
ー織物でも編み物でも刺繍でもない『輪結びつなぎ』の技法ー
そして、渡辺さんは、少数民族の民族衣装の布つなぎ部分から、とりわけ不思議な布つなぎの技法に出会うことになったそうです。
ミンダナオ島西部の少数民族マラナオ族のマロン(*)のつなぎ部分にみられる輪結びつなぎ技法
写真中央縦方向が輪結びつなぎです。
*マロン: 東南アジアで一般的にみられる筒状のスカート。ミンダナオ島ではマロンとよばれている。マロンは丈が長いのが特徴で、丈を長くするため布をつなぐ必要がある。そのつなぎ部分にごくまれに輪結びつなぎ技法がみられる。
それは、織物でも編み物でも刺繍でもない不思議な技法。その布つなぎの技法を『輪結びつなぎ』と名付けてライフワークとして研究し、解明し、試行錯誤を繰り返してその再現にも成功しました。
針と糸だけで、美しい紐テープをつくる、それと同時に両脇の布につなぎ留める・・・。この技法の記録と再現に取り組んだのは世界でも渡辺さんだけだそうです。
渡辺さんは、布つなぎとの出会い、さまざまな発見、現地調査、そして再現と図解まで、『フィリピンの不思議な布つなぎ技法-発見・再現・図解・調査などの記録』という研究論文にまとめられています。
今回、当ブログに寄稿していただけることになりましたので、3回に分けて順次掲載いたします。
この研究論文は、一人の主婦が布と出合い、『輪結びつなぎ』の発見と再現にのめりこみ、現地調査にもでかけて、粘り強く技法を解明していくというワクワクするドラマチックなストーリーでもあります。熱血主婦渡辺さんのライフヒストリーでもあります。私たちスタッフも渡辺さんの技法再現への熱い情熱とパワフルな行動力に圧倒されました。
ぜひ、みなさまにお読みいただき、布つなぎの技法『輪結びつなぎ』について知っていただければと思います。
マラナオ族(ミンダナオ島西部)のマロンのつなぎ部分。針と糸で美しく丈夫に布と布がつながれています。左側の一枚の写真から、輪結びつなぎの再現を試みたものです。
渡辺さんは1枚の写真から、自分の手を動かして試行錯誤して輪結びつなぎの技法を解明していくという気の遠くなるような地道な作業を繰り返しました。
→詳細は渡辺さんの論文へ続く 当ブログで3回に分けて順次掲載いたします。
渡辺敬子(わたなべ けいこ)プロフィール
1941年静岡県生まれ。静岡県立女子短期大学卒業。主婦。夫の転勤に伴い、英国4年、フィリピン25年、米国2年、ウズベキスタン2年と30年以上にわたり海外で暮らす。1972年から1997年迄フィリピンで暮らした25年間の後半は少数民族の民族衣装の布つなぎとして見つかった「輪結びつなぎ」を再現してから古い民族衣装、織物、布つなぎに興味を抱きその収集、再現、研究をするようになった。